欧州徒然草

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循環型経済の構築に向けて

今日はEUの環境政策についてのお話です.

 

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出所:データは欧州統計局

 

図はEU全体での資源の循環率です.リユースやリサイクルされた資源の割合を指しています.金属は比較的循環率が高いですが,化石燃料は非常に低くなっています.車のガソリンなどの燃料は大気中にガスとして排出されて再利用されないため,循環率が下がります.EUは資源の循環率を高めるための「循環型経済に関する行動計画」を公表しました.

 


◆フォンデアライエン欧州委員会のグリーンディール

2019年に発足したフォンデアライエン欧州委員会では6つの政策課題を掲げています.


1.グリーンディール
2050年までに温室効果ガスのネットの排出をゼロに近づけるのが目標です.このゼロというのは100トンのCO2を排出しても他の場面で100トンのCO2を削減できればOKという考え方で,排出をゼロにするという意味ではありません.2050年は遠いので,2030年までの目標値も立てます.今回見ていく,循環型経済への行動計画も含まれます.

 

2.労働市場も含めた経済政策
2010年代に悪化した労働者の状況も考えつつ,EU経済の強化を目指します.2010年代にはGDPが回復して失業率が下がっていますが,人々,特に45歳未満の男性の経済状況は悪化しています.中小企業支援や資本市場同盟などを進めつつも,貧困や不平等の問題にも取り組みます.

 

3.経済・社会のデジタル化
AIやデータなど今後の経済の競争力強化に欠かせない産業を育成します.EUでは高速インターネットやオンラインショッピングを充分に利用できない人も多くいます.人々のアクセス状況を改善することも政策課題です.EUではGDPR(一般データ保護規則)がありますが,個人情報の保護とデータ活用のバランスも必要です.

 

4.市民生活の保護
消費者保護,犯罪の抑制,法の平等などを目指す政策です.一般の人々の生活に関する幅広い事項が含まれていますが,ここには,国境問題も含まれています.表面的には一番優先順位が低いような扱いになっていますが,難民問題が政治問題化していることから,国境問題の優先順位は高いと予想されます.

 

5.対外活動
アフリカやアジアなどの周辺地域への支援,EUの拡大に関する問題の他にも,貿易政策や安全保障など幅広い分野でEUのプレゼンスを世界に示す政策が含まれています.

 

6.市民の政治参加
2019年の欧州議会選挙では投票率が上向いたものの,依然として低い水準です.EU市民は自国選挙には関心が高いですが,欧州議会選挙への関心が高くなく,EUへの関心の低さが理解の低さにつながり,EUへの反発につながっています.これからのEUをどうするのか,という話題も含め,EUと市民とのコミュニケーションを増やす政策です.

 


これらの政策目標の中でも,グリーンディールが最も早くから取り組みが進められています.他の政策分野では国境管理やデータの取り扱いなど各国の合意が取り付けにくいことも関係していると思われます.また,近年は環境問題に関する市民の関心が高まっており,子供も含めたデモが頻発していました.デモについては最後に振り返りたいと思いますが,市民との距離が遠いことを自覚している欧州委員会は,環境問題,国境管理,結束政策(社会問題への対応)を前面に出してきています.

 

グリーンディールの内訳項目として,クリーンエネルギー,持続可能な工業,ビルとリノベーション,持続可能な移動,生物多様性,持続可能な農業,汚染物質の抑制,気候変動問題が政策分野に取り上げられています.

 

 

◆循環型経済に向けて

循環型経済に関する行動計画は,3月11日に公表されました.資源を使って捨てるのではなく,再利用することを目的としています.2017年のEU全体の循環率は11.2%で,2004年の8.2%から3ポイント上昇しています.統計の対象になる原料は,紙や木などのバイオマス,ガラスなどの非金属鉱物,ガソリンやプラスチックなどの化石燃料,鉄や銅などの金属鉱石の4つに分かれます.これら4つで年間で798万トンを投入しています.このうち,170万トンはEU域外から輸入しており,110万トンは化石燃料です.ちなみに,エストニアのシェールオイルやオランダの天然ガスなどEU域内でもエネルギーが調達できます.

 

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出所:欧州委員会ホームページ.ファイルのアドレスは,https://ec.europa.eu/eurostat/statistics-explained/images/5/54/Material_flow.EU27-2017_Gt.png


EU域内では,259万トンが大気中に廃棄,1万トンが海洋に廃棄,71万トンが埋め立てられています.ガソリンや暖房用天然ガスなどの化石燃料の多くは一度燃焼するだけで再利用していませんので,大気中に廃棄していることになります.近年問題になっているプラスチックは埋め立てられたり,海洋に投棄されたりしています.なお,海洋プラスチックの大部分は漁具であり,海洋プラスチックの削減には漁業面での規制が不可欠になります(使い捨てプラスチックの削減に向けて - 欧州徒然草).

76万トンは輸出されており,おもな輸出先はトルコです.日本でもペットボトルの回収率は高いですが,その多くは東南アジアに輸出する形で捨てていました.2018年頃から中国や東南アジアの国々が日本からのプラスチックごみの受け入れを拒否していることから,日本国内にプラスチックごみが滞留しています.

93万トンはリサイクルなどで再び経済に投入されています.これが循環率に入ります(この数字だと循環率が11.6%になってしまいますが・・・).この他に,金属などは,自動車を自宅で保管するなどの形でEU経済に滞留しています.

 

 

行動計画には,7つの製品分野が含まれます.


1.電子製品,ICT
PCなどは製品寿命が短く,頻繁に新しい機器に買い変えて古い製品を廃棄します.製品のアップグレード性を高めることで,廃棄部分を減らして製品の長寿命化を図ります.エコデザイン指令(指令はEUが制定する法律)では,携帯電話やタブレット,ノートPCなどの充電器の規制を進めます.充電器が共通であれば,機器を買い変えても古い充電器が使えるようになります.


2.衣料品
衣料品も含めた繊維産業は,製品の生産・流通・廃棄の過程で環境に与える負荷が大きく,エネルギーも浪費します.しかも,流行などの影響で多くの服が売れ残って廃棄されます.世界全体では,1秒間ごとにトラック1杯分の衣料品が焼却されたり埋め立てられたりしています.衣料品では,製品のリユースと分別回収を進めていきます.消費者が持続可能な衣料品を選択できるようなラベル制度なども進められます.


3.プラスチック
世界ではプラスチックの消費量が今後20年で倍増し,海洋に投棄されるプラスチックの総量が魚の総量を上回ると見られています.EUでは使い捨てプラスチック削減指令がすでに成立していますが,ストローなど消費者の目につきやすい製品に限られています.建材や自動車などでもリサイクルプラスチックの利用を進めることでプラスチックの生産量を押さえます.
また,マイクロプラスチックを減らすために,生物分解性の製品開発,水中からのプラスチックの回収事業などを進めていきます.


4.建設部門
建設部門はEUの資源投入量の50%を占めており,EU全体の35%の廃棄物を生み出しています.リサイクル素材を使うようにすれば,資源の投入量も廃棄物も減らすことができます.


5.包装
容器なども含めた包装廃棄物は,1人当たり173㎏に上ります.EUではすでにエコバッグの利用が勧められていますが,詰め替え用品を増やしたり,リユースやリサイクルを進めることで包装廃棄物を減らすことができます.
飲み物の容器に関しては,国によってはリユースの取り組みがすでに進められています(プファンド - 欧州徒然草).


6.電池と自動車
電池と自動車はリサイクル率の低い製品であり,放置されると環境に悪影響を及ぼします.電池の回収率やリサイクル率の向上,価値のある素材の回収などを進め,消費者に対する情報開示も進めます.自動車や廃油の廃棄やリサイクルについての規制を改定します.


7.食品
EUでは生産された食品の20%が失われたり廃棄されたりしていると見られています.EUでは,曲がったキュウリは販売できない,リンゴは直径8㎝以上でなければならない,などの厳しい規制があり,農産物の廃棄につながっていましたが,徐々に規制が緩和されています.物流の改善などにより,消費者の目に触れる前に廃棄される食品を減らす,農場から食卓まで戦略(EU Farm-to-Fork Strategy)が進められます.また,使い捨ての包装,容器,カトラリー(スプーンなど)についても再利用可能な製品の導入を促します.

 

 

◆環境規制はゲームチェンジ
循環率を高めることは,エネルギーや鉱石などの原料の輸入を減らし,経済が使う資源やエネルギーの量を減らすことにつながります.輸入の減少はGDPを増加させ,省資源で活動できれば企業の競争力が高まります.資源やエネルギーの利用が減れば,物流や資源のストックなどの面でも負担を減らせます.循環率を高めるためには新しい技術を導入する必要があり,研究開発が欠かせません.欧州委員会は,循環型経済を目指すことで2030年までにGDPが0.5%押し上げられ,新規雇用が70万人見込めるとしています.

省資源の生産プロセスは輸出することもでき,厳しい環境規制が世界中で導入されればEU製品の競争力が高まります.すでに,CO2の排出が多い国からの輸入に税を課す議論が出始めています.環境対策は産業政策だといえます.

 

日本では工場での生産の場面での環境対策は進んでいるものの,家計も含めた経済全体では関心が低いのが現状です.ESGについても,流行っているから,外圧があるから仕方なく,形だけ進めている企業も多く,環境対策はコスト増という目で見られています.CO2の排出を防ぐために工場の煙突に回収装置をつける,という弥縫策の発想です.残念ながら大学生も環境問題には関心が低く,あったとしても気候変動問題などは身近な問題ではないと捉えているようです.

 

経済学にも変化が求められます.これまでの経済学は,製品を作って売って,そこで終わりでした.とにかくたくさん作ってたくさん売ればGDPが増加してみんながハッピーになるという考え方です.GDPの増加が人々の生活状況を必ずしも改善させないということは2010年代に明らかとなり,GDPが増え続ける中で市民のデモが頻発しました.

経済学は希少な資源の配分という問題を考えているはずなのに,いつのまにかGDPが増えればそれでよい,規模の拡大が目的になってしまっています.廃棄まで含めた製品のライフサイクルを考えるべきで,資源やエネルギーの循環にも気を配るべきでしょう.
気候変動は農産物や水などの資源の供給を不安定にし,大気や海洋の汚染は私たちの健康を脅かして生活の質を低め,健康保険財政の負担を増やします.気温上昇で海面が上昇すれば居住可能地域が減少します.人口の無秩序な増加が問題をさらに大きくさせます.肥大化を良しとする経済学の考え方にも変化が必要です.

 


◆環境ポピュリズムの危うさ
近年,環境ポピュリズム(Environmental Populism)という言葉が聞かれるようになってきています.ヨーロッパでは子供も学校をさぼってデモに参加し,政府に圧力をかけています.ポピュリズムという言葉にはネガティブなイメージがありますが,環境ポピュリズムには肯定的な評価も多いようです.

 

しかし,環境ポピュリズムの弊害を指摘する人が少なすぎるように思います.まず,デモを繰り返している人々は,本当は環境問題には関心がありません.2010年代には欧米の人々の生活状況が悪化して不満が高まっており,政府を批判できるのであれば「ネタ」は何でも構いません.反グローバリゼーション,反EU,反難民などヨーロッパではデモのネタがその時々で変化しており,たまたま現在は環境が利用されています.おそらく今後は感染症対策などにネタが移っていくでしょう.

 

彼らは,自分たちがデモをすることによって環境にどれくらい負荷をかけるのか,デモの様子を動画やメッセージで送るとどれくらいの環境負荷があるのか,このような問題を考えたことがないのでしょう.例えば,電子メールを1通送ると4gのCO2が発生するといわれています.動画は通信帯域やクラウドストレージを多く使うため,かなり多くのCO2が発生します.子供たちが環境問題を本気で考えているのならば,スマートフォンを使わない曜日を決めるなどの対策を採る方が効果的です.子供たちへの教育も必要です.
ちなみに,クラウドによる写真の共有などもCO2の発生につながります.ピンボケで共有しても意味がない写真をクラウドから削除することも環境対策になります.

 

また,デモ参加者の中にはとにかく目立つことが目的で,過激な行動を取る人もいます.メディアはこのような人を好んで放送するため,環境活動家に対する嫌悪感が広がることが最も懸念されます.デモに参加している人は環境活動家ではありません.環境団体にもメディア受けする過激な行動を資金源にしているところがあり,悪い意味での環境ポピュリストといえるでしょう.

 

里山の生態系を守るために小川の整備を行っている人々,昆虫の種類や数を長年にわたって調査している人々,子供たちに地元の動植物を紹介する活動を行う人々,など,本当の環境活動家は少ない予算や補助金で地道な活動を続けています.WWFのような環境団体はこのような活動にも資金を拠出していますが,活動についてもっと広く人々に伝えるよう努力すべきでしょう.情熱を持って活動している人は多いですが,情熱や感情だけではダメですので,科学的な調査や学際的な研究も進めていく必要があります.環境保護は競争力を高めるための産業政策であるという認識を共有するだけでも大きな成果が挙げられるはずです.


EUは先進的なルールを作ることによって世界でプレゼンスを示していますが,EUのルールに適合しない製品やサービスをEU域内で許可しないということでもあります.人々の生活を守る政策ですが,同時に価格の低い途上国の製品を排除する政策にもなっています.巧妙な戦略ですが,一方で環境対策が必要なのは自明です.環境対策が避けられないのであれば,環境対策を社会改善に役立てようという発想が重要なのではないかと思います.

 

 

本日はここまで.