欧州徒然草

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廃棄プラスチックの削減に向けて

 

今日はEUが公表した廃棄プラスチックの削減に向けた戦略のお話です.詳しい情報は以下のページを見てください. 

European Commission - Plastic Waste

 

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出所:Special Eurobarometer 416 (2014), Attitudes of European citizens towards the environment, p.56.

今回の戦略は,2015年に採択された循環型経済に関する行動計画の一環です.一部のニュース解説では,中国の廃プラスチック政策に対応したものとされていますが,たまたま時期が重なっただけです.

 

EurobarometerはEUレベルで実施されているアンケートです.非常に広い範囲の分野でアンケートが実施されており,上図の環境に関するアンケートは3年に一度実施されています.上図のアンケート結果は2014年のものです.2017年の最新のアンケートからはこの設問が除かれています.

 

2014年のアンケート416に比べて,2017年のアンケート468ではプラスチックに関する設問が増えています.その中から一つ見てみましょう.

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出所:Special Eurobarometer 468 (2017), Attitudes of European citizens towards the environment, p.79.

 

プラスチック袋の多くはレジ袋だと思われます.一度限りで捨てないで再利用すればYesになります.もちろん,レジで袋をもらわない人もYesになります.EUは2015年に1994年の指令(EUが作成する法律)を改正する形でレジ袋削減の対策を採っています.

 

今回のプラスチック削減戦略を進める理由として,EUはプラスチックによる海洋汚染を強調しています.ヨーロッパのビーチに打ち上げられるごみのうち,84%がプラスチックだそうです.しかも,ごみ全体の50%は使い切りのプラスチック製品であり,この部分を改善する必要があるというわけです.

使い切り製品として,ライター,飲み物のボトルやキャップ,綿棒,衛生タオル,袋,お菓子の包装,ストローやストローを入れる袋,風船,食品のトレー,コーヒーなどのカップやふた,スプーンなどを挙げています.確かに,持ち帰りのアイスコーヒーをストローで飲むと,一度しか使わないプラスチック製品がごみになります.

 

海洋でさらに問題になるのはマイクロプラスチックです.マイクロプラスチックとは大きさが5㎜以下のプラスチック片のことです.化粧品,洗剤,塗料などにも含まれているプラスチックだけでなく,もともとは大きかったものが波にもまれて小さくなったものも含まれます.特に,波に長い間もまれると目に見えないくらい小さくなります.マイクロプラスチックは小魚などの体内に入り,食物連鎖を経て人間も食べています.

健康に与える被害は今のところ未知数ですが,私の記憶では2010年代初めころからヨーロッパではテレビのドキュメンタリー番組などで問題が取り上げられていました.なお,化粧品の中には日焼け止めクリームも含まれるのではないかと思います.日焼け止めに含まれる粒子が海洋を汚染して,最終的に人間の体内に取り込まれます.

 

では,EUの報告書,European Commision (2018), A European Strategy for Plastics in a Circular Economy, COM(2018) 28 final (SWD(2018)16final). に基づいて戦略を見てみましょう.Link to Document1が本文,Link to Document2が今後修正する予定の法律のリストです.

 

ヨーロッパでは年間2580万トンのプラスチックが廃棄されており,31%が埋め立て,39%が焼却処分されています.世界全体では年間500から1300万トンのプラスチックが海洋に投棄されていますが,そのうちEUは15万から50万トンを海洋に投棄しています.そのうちマイクロプラスチックは7万5000トンから30万トンと考えられています.

近年は生物分解性プラスチックが徐々に増えていますが,ラベル表記などの統一性がない問題やオキソ生物分解性プラスチックなど一部の商品は環境に悪影響を与えるなどの問題があります.

 

このような問題に対処するためのEUの戦略は大きく3つに分けられます.

第1の戦略は,プラスチックのリサイクルを進めることです.リサイクルを進めるために,リサイクルしやすいデザイン,リサイクル製品の需要の拡大,プラスチック製品の分別の促進を進めようとしています.リサイクルしやすいデザインとは,プラスチック製品への添加物の表示や統一化を指します.プラスチックは一見するとすべて同じように見えますが,実は種類がたくさんあるようです.添加物によりリサイクル手法が変わるため,これらがきちんと表示されていないとどうリサイクルしていいのか分からなくなります.特に包装に用いられているプラスチックは消費者が捨てるプラスチックの60%を占めているため,表示のルールなどの法制化を進める予定です.

例えば自動車の部品に使われるプラスチックは,普通のプラスチックよりも燃えにくく加工されています.このような製品の表示ルールも統一化させる必要があります.

リサイクル製品の需要については,価格面やリサイクルの不便さが障害になっています.プラスチックは大量に必要なのに,リサイクル品は少量しかなく品質への不安もあるため,なかなか利用されていません.プラスチックリサイクルの研究への資金援助とルール作りが必要です.

分別については,あまり具体的なことが書かれていません.プラスチック製品にラベルを付けて分別して捨て,それを効率よく仕分けするシステムが必要です.

 

第2の戦略は,プラスチックごみそのものの量と投棄の削減です.ここでは,ごみの削減,生物分解性プラスチックに対する法制度,マイクロプラスチックの問題が挙げられています.

ごみの削減については,リユース(reuse)を進めることも重要です.ペットボトルに関しては,ドイツ,デンマーク,フィンランド,オランダ,エストニアなどではデポジット制度(ドイツではプファンドといいます)が普及しており,ペットボトルのリユース率は94%に上っています.これはジュースなどを販売する際にデポジットを上乗せし,飲み終わった後にスーパーなどで回収してデポジットを返金する仕組みです.日本でも昔は瓶の回収に使われていました.

プファンド - 欧州徒然草

ドイツなどでペットボトルの飲料を買うと,ボトルに擦り傷が入っていることがありますが,リユースしているためです.リユースしやすいように,ボトルが日本よりも頑丈にできています.また,リユースしやすくするためにはボトルの形などのデザインの統一も必要です.このような取り組みでごみを大幅に減らすことができます.日本ではリユースは考慮されていなため,ペットボトルはラベルをはがして捨てますが,ドイツでは種類の判別のためラベルは付けたまま店舗に返します.

飲料水に関しては,ヨーロッパでは水道水を飲まない人がかなりたくさんいます.ペットボトルの水を買うことはごみ排出につながります.そこで,EUは飲料水指令(Drinking Water Derective)を制定する予定です.水道水の品質を上げればごみの削減につながります.

また,ごみを増やす要因として,caffe to goのようなto goサービスの普及も挙げられています.カップのふたやストローなどは一度使っただけで捨てられてしまい,リユースされていません.観光地などでこれらが適切に捨てられていないために,ごみが海洋まで達しています.また,釣りやマリンレジャーでもプラスチックが多く使われていますが,これらも適切に捨てられていないことが問題視されています.一般の人々に対してこのようなリユースや適切な廃棄をどのように促したらいいのかについては,いい解決策がない,とも言っています.使い切り製品や過剰包装を抑制させるための研究は幅が広く,行動科学なども必要だとしています.

企業に対しては素材・製品開発や研究支援などが可能で,約3億4000万ユーロが予算措置されています.例えば漁船から出るプラスチックごみを陸上で適切に処分するためのインフラ整備や,海上で集めたプラスチックの処理施設などの整備を行う予定です.

生物分解性プラスチックに関しては様々な種類があり,一般向けに販売されているものが必ずしも自然環境下で分解されるわけではないそうです.特に,コンポスト分解性プラスチックは,家庭用のコンポスト機に入れても分解されないものもあるそうです.これらのラベルや品質の統一化を図ることを目指しています.個人的には,コンポスト分解性プラスチックは良いアイデアだと思います.ビニール袋に生ごみを入れてそのままコンポスト機で堆肥にできるのは便利です.なお,オキソ生物分解性プラスチックは将来的に禁止される予定です.

マイクロプラスチックに関しては,化粧品,塗料,タイヤなどから環境に排出されています.化粧品についてはすでにいくつかの加盟国で規制が始まっており,REACHという化学物質に関する規制に加えられる予定です.日本でもナノ粒子などの名前でマイクロプラスチックが添加された化粧品がありますが,環境には大変悪いことはあまり知られていないのではないでしょうか.海洋にすでに出てしまったマイクロプラスチックを改修する研究も必要です.

 

第3の戦略は,循環型社会にするための研究と投資です.プラスチック産業は重要な産業の一つであり,全面的にプラスチックを禁止するのではなく,環境面で安全なより性能の高い製品やバリューチェーンを作ればいい,という発想です.研究の例として,電子透かしを利用したプラスチックごみの選別や淡水中でも分解される分解性プラスチックの開発が挙げられています.また,トウモロコシの芯から作られるような化石燃料を使わないプラスチックの開発にもEUは資金を拠出しています.

 

現在はこのような戦略についてのパブリックコメントを募集している段階で,2018年末までにはさらに具体的な行動計画として公表されるのではないかと思います.

EUはプラスチックを使ってはいけないとは言っていません.使い捨てをできるだけ止めて,リサイクルしやすいようなごみの捨て方を考えよう,ということです.カフェでアイスティーを飲むときに,ストローを使わずにコップから直接飲む,というのは簡単にできる対策ではないでしょうか.

 

本日はここまで.