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欧州徒然草

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リスボン条約の発効に向けて

今日は珍しくニュースの話題です.

今日のニュースで,EU(欧州連合)の初代の常任議長にベルギーの首相が選ばれたというニュースがありました.このニュースは同時に,EU新条約であるリスボン条約が12月1日に発効することが発表され,EUの歴史の1ページを刻むことになりました.これらについては,駐日欧州連合代表部のホームページでも確認できます.

駐日欧州連合代表部 HP

マスコミから非常に注目されたのは,EU大統領ですが,この職は正式には,欧州理事会常任議長になります.ベルギー首相のヘルマン・ファン・ロンパウが選ばれましたが,マイナーな人物ということで日本では意外性を持って報道されたようです.これには,この職に関する勘違いがあるようです.

EU大統領はマスコミが勝手につけた名前で,まるでアメリカの大統領のように大きな権限を持っていると勘違いされそうですが,実際には,常任議長には大きな権限はありません.もともと,欧州理事会はEU加盟国の首脳が集まる会議で,半年ごとに輪番で議長が決まっていました.この議長は会議の司会,調整役です.議長の役割が与えられた国は議長国として,会議のホストになっていました.新しい常任議長もこれまでと同じような役割を担うと考えられます.

半年ごとに議長が入れ替わるので,欧州理事会の会議での議論も半年で切れてしまって時間をかけてじっくりと議論するのが難しいことがあったため,議長職の期間を2年半まで長くしようというのが今回決まった新しい常任議長です.再任は一度だけできます.ベルギーはもともと2010年の後半に議長国となるはずだったので,ベルギー首相が選ばれるのが全く筋違いということではありません.イギリスのブレアー元首相は国民にウソの情報を流してまで戦争行為をした人ですので,人望はそれほどなかったといえます.

EUでは,欧州理事会は重要な役割を持ちますが,法案の提出権があるのは欧州委員会で,欧州委員会委員長(現在はポルトガルのバローゾ委員長)はEUの顔として重要な役割を担い続けます.また,閣僚理事会(欧州連合理事会とも言います,条約上は単に理事会です)や欧州議会がこれまで通り立法の過程に加わります.簡単に言うと,EUで決まる法律などは,欧州委員会が提案して,閣僚理事会と欧州議会がその内容をチェックして承認する形を取っています.

ちなみに,立法(閣僚理事会,欧州議会),行政(欧州委員会),司法(欧州司法裁判所)の三権分立がEUの中で形作られています.EUが決めた法律は,加盟国の国内の法律よりも上位にあり,加盟国が勝手に拒否することはできません.この辺は,国連などの他の国際組織とは異なります.

リスボン条約は,批准手続きに失敗した欧州憲法の改定版ですが,欧州憲法で実施するはずだった新しい試みのいくつかは見送られることになりました.分かりやすいところでは,EUの旗(青地に黄色の12個の星)や歌(ベートーベンの歓喜の歌)はリスボン条約での条文化が見送られました.実際には,世界中の人がEUの旗や歌だと認識していますし,現実にあちこちで使われていますが,条文化はまるでEUが国のように見えるので反発が大きかったわけです.この例からも分かるように,EUは国ではなく,あくまでも加盟国が集まって話し合う場だといえます.

リスボン条約では,閣僚理事会での投票で全会一致の分野が特定多数決(ルールは複雑ですが,おおむね3分の2の賛成が必要)になったり,EUの3本柱といわれた政策・協力分野が整理されたりと,複雑化したEUの仕組みの簡素化や意思決定のスピードアップが図られています.リスボン条約はアイルランドの国民投票で否決され,発効までにかなり時間がかかりましたが,これでEUは新しいステージに入ります.例えば,現行のニース条約では,27カ国までしかEUに加盟できなかったので,リスボン条約により加盟候補国になっているクロアチア,マケドニア旧ユーゴスラビア,トルコの加盟問題が浮上してくるでしょう.

ただ,リスボン条約はこれまでのEU条約の改定版に過ぎず,欧州憲法で試みようとしたEUの様々な条約の一本化などの重要な改革が先送りされていますので,次の条約の必要性はすぐに出てくるでしょう.1993年に発効したマーストリヒト条約はECからEUへの変化を実現させた重要な条約ですが,その後すぐに,アムステルダム条約(1999年発効),ニース条約(2003年発効)と新しい課題に対応するために次々と条約を改定させてきた歴史があります.リスボン条約はその延長線上にあります.

ちなみに,この条約によってEUがどうなるのか,市民の生活に影響があるのか,などの点については,EUのほとんどの市民は知らないでしょうし,関心もなさそうです.言葉の分からないドイツ語のニュース番組をいろいろみましたが,リスボン条約の発効についての関心は薄く,普段通り,国内問題の方が重要そうでした.2009年は欧州議会の選挙もありましたが,投票率が低く,この点でも市民の関心は薄いといえます.その一方で,市民のEUに対する懐疑的な目があり,EUはこれまで以上に,市民に対して自分たちのやっていることやそのメリットを説明する必要があります.

ヨーロッパは観光地として非常にいい所ですが,EUという世界でも珍しい試みを50年以上も続けているところでもあります.その試みの中でユーロも生まれました(1999年,現金流通は2002年から).ヨーロッパのニュースは日本ではなかなか流れませんが,ヨーロッパの歴史とともに最新のニュースにも関心を持っていると,観光した時の印象も違うと思います.

本日はここまで.